ダウンロード違法化の範囲を大きく拡げることについて、「中間まとめ」の58ページにはこうまとめられている。

・ユーザー側の萎縮効果への懸念について、ヒアリングや追加の照会においても確たる事例は出てこなかった。それを前提にすると、音楽・映像の規定と他の著作物との間に差を設けるような理由はなく、従来と同様の要件の下、著作物全般を対象にダウンロード違法化を行うべき。

つまり、スクショを含む包括的ダウンロード刑事罰化に対して、ユーザーの萎縮効果はないことにされている。また、61ページにはこうある。

(i)ユーザーが違法にアップロードされた著作物だと確定的に知っており,単なる視聴・閲覧に留まらず,私的使用目的で意図的・積極的にダウンロードを行うという場合に,なお,ユーザーの保護が必要と考えられる事例があるか,(ii)そのような場合におけるユーザーの行為(違法にア ップロードされた著作物から私的使用目的で意図的・積極的に便益を享受しようとす る行為)を著作権者の利益保護よりも優先する正当性はあるか,という点について,ユーザー側の団体に対するヒアリング・文書での照会も行いつつ,検討を行った。

ユーザー側の団体からは,そのような具体的な事例等は明確に示されなかった

つまり、違法アップロードだとユーザーが「確定的に知っていた」と認定されたら、スクショしただけで刑事罰を受けかねないとしても、著作権者の利益保護のほうが大事でしょということ。

なぜこうなったのか?その理由はこの小委員会に呼ばれたステーク・ホルダーのバランスにある。いまわかる範囲で小委員会で発言した団体はつぎのとおり。

  • 権利者側の団体(違法化を求める発言)
    • コンテンツ海外流通促進機構(CODA)
    • 日本書籍出版協会
    • 日本雑誌協会
    • コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)
    • ザ・ソフトウェア・アライアンス(BSA)
  • ユーザー側の団体(違法化への懸念を発言)
    • インターネットユーザー協会(MIAU)
    • 全国地域婦人団体連絡協議会

著作権の委員会ではおなじみの団体ばかりだが、かなりバランスが悪い。団体の資金力や活動能力にばらつきがあり、概してユーザー側は弱い。MIAUも主婦団体連合会も頑張ってはいるが、限られた時間とリソースのなかで十分な意見陳述ができなかった部分もあるだろう。そもそも、数千万人はいるであろう国内ユーザーの声を、たった二つの団体で代表できるはずがない。また、いくら意見をいっても、包括的ダウンロード刑事罰化に向かう空気(あるいは漫画海賊版対策をやると宣言した官邸への忖度)まで変えることができたかというのも疑問だ。

ここには著作権をめぐる力学の、永年の構造的な問題がある。アメリカの電子フロンティア財団(EFF)のような、ユーザー側に立つ強力な団体を、日本のネットユーザーが育ててこなかったことのツケでもある。

いま意見を出さないと、ユーザー側の萎縮効果への懸念等は本当に「ない」ことになる。「包括的ダウンロード刑事罰化」が実現してしまわないようにするのは、「いま」しかない。法案が国会に上がってからでは、いくら騒いでも遅い。いまやっているパブコメに意見を送って、こうしたことに影響が出るといった具体的な「確たる事例」を示すのが効果的だと思う

66ページには、「パブリックコメント等を通じて、事務局において引き続きユーザー保護が必要となる事例の有無について更なる検証を進めることが適当である」とある。委員会としても事例を広く集めたいのだと思う。それにはネットユーザーの協力がいるのだ。