ダウンロード違法化の適用範囲を拡大する著作権法改正案は、3/13に自民党が今国会提出を見送ったことで一安心の空気が広がっているが、それはたいへんまずいことだ。自民の政治家自身による最近のツイートやブログから、事態が好転していないことがみえるからだ。

第一は、山本ともひろ衆議院議員の3/19のツイートである。

午後、文科省と文化庁の方々が来所。見送りとなった著作権法改正案の経緯を説明に来られました。スクショが違法になるなどのデマが出回り、それを信じる人達も出始め、法案の中身より誤った情報の錯綜やマスコミの誤報など様々な要因が重なり、結果、見送りに。今後、更に丁寧な説明が必要です。

写真には担当官僚とみられる二人が資料を示しながら議員を説得している様子が写っている。法案提出の見送り後、文化庁が方針を変えたとの情報はないので、おそらく例の虚偽を指摘されている説明資料(検証はこれとかこれ)を携えて、自民の議員にロビイングをして回っているのだろう。

注目すべきは、この山本ともひろ議員は総務会にも文部科学部会にも知的財産戦略調査会にも属していないことだ。

どうやら文化庁は、相当広い範囲の自民議員に虚偽の説明をしつづけているようだ。

つまり、世の中がひと息ついているあいだに、たいへん危ない改正案を通す根回しが、着々と進められている。

第二は、甘利明・知財戦略調査会長による3/19のブログである(このエントリーはBLOGOSに転載されている)。

甘利議員の主張は主に三点ある。1.国民は誤解している、2.「政治論」として差し戻したのは日本漫画家協会から意見を聞いていなかったからだ、3.国民が「誤解」したのは朝日の報道ぶりのせいだ。

1.については、誤解しているのは(あるいは本当はわかっている?)残念ながら甘利議員である。

今回の問題の本質は、(1)文化庁案には著作権法を専門とする大多数の研究者が反対をし、より適切な代案まで出しているのに文化庁はそれを無視していること、(2)継続審議を求める大多数の小委委員の声を無視して、強引に審議を打ち切ったこと、(3)大多数の委員の意見が反映されない報告書をまとめたこと、(4)文化審議会著作権分科会での賛成意見を水増しするなどした説明を文化庁が自民党に対して行ったこと、(5)対象がすべての種類の著作物に拡大しているのにステークホルダーは漫画家だけだと思っていることにある。そうしたことへの理解がまるでみられない。ここまで来ると、ラスボス=甘利明説を否定するのが難しくなる。

2.については、「政治論」として3/6の部会に差し戻し、そこで日本漫画家協会の赤松健氏らからヒアリングをし、文化庁案の修正なしをその場で決したのだから、差し戻しは再検討のためではなく、たんにプロセスの体裁を整えるだけのためだったことになる。また上で述べたように、ステークホルダーは漫画家だけではなく、インターネットが情報流通の最重要インフラになったこの時代に、文化と学術にかかわり、またそれを享受するすべてのひとびとに広がっていることの認識がまるでみられない(それは、いまだに「静止画ダウンロード違法化」などと報じるメディアもおなじだ)。

ちなみに、この日まで日本漫画家協会から意見を聞かなかったのは、同協会がパブコメに意見を出していなかったためだ。パブコメなんて無意味という意見には同意できない。パブコメにも意見が出なかったら、国民のあいだに懸念はないことにされてしまっただろう。パブコメに反対意見が多数出たからこそ、「パブリックコメントで提出された御意見を受けた事務局としての考え方」のような、文化庁の不可解な姿勢がはっきりみえる文書を引き出すことができた。

3.については、甘利議員は日経と朝日の名前だけを出して、暗に、しかしはっきりと読み取れる書き方で朝日の報道姿勢に問題があったといっている。

管見の限りでは、この問題については日経の報道量は多くなかった。あえて対置させるならば朝日と産経が適切だ。(読売も優れた解説記事を載せていました。)

自民党の党内プロセスに入って以後は、朝日の報道はかなり抑制的だったのに対して、産経は「鶴の一声」報道のような、飛ばし気味の記事を連発していた。報道姿勢を問題にしたいのならば、相手は朝日ではなく産経であるべきだろう。

繰り返しになるが、事実上の「選挙休戦」に入っているあいだにも事態は進んでいる。ちょうど政治家が国民の声を聞かなければならない時期なので、自民議員に懸念を伝えつづけることを怠ってはいけないと思う。

具体的には、議員は以下のものを読むべきだと伝えてほしい。