本日(2月22日)自民党文部科学部会と知的財産戦略調査会の合同部会で、違法ダウンロード拡大のより具体的な方向性が文化庁から示され、部会はそれを丸呑みしたようだ。

現時点では朝日新聞の報道と弁護士の水野祐先生のツイートくらいしか情報がないのだけど、それがあまりにもな内容なので指摘しておく。

朝日の記事によると、赤池誠章部会長は、「『知りながら』という主観要件があり、情報収集するときにダウンロードした中に違法なものが紛れ込んでいても、それは知らなかったということ。権利者に指摘されたら削除すればいいという話」だと語ったという。

知らないでダウンロードしたものは違法にしないのはその通りなのだが、これはダウンロードする行為の違法化であって、落としたファイルの単純所持までは違法にしないはずだ。だから、権利者に指摘されても、私的に持ち続けるのは構わないはず。

問題になったら記録してあるものを消せばいい。確かにいまの一部の政治家と官僚は、そういう感覚でいることを、近年のいくつかの問題を通して、国民はよく知っている。だから別に驚くことではないのかもしれない。だが、言われたら削除すればいいのなら、法改正など必要ない。刑事罰まで付ける法改正をしようというのに、責任ある立場の議員がこんな程度の認識なのは驚くばかりだ。

しかし、この言葉は、方針決定時の部会長の考えとして、永く記録しておくべきだ。どのような形で法制化されても、こういう考え方で法改正した事実は、あとで重要になるかもしれない。

また、記事によると、Q&A方式でわかりやすく説明する文書を公表するよう、文化庁に求めたという。

そんな文書を読むのはあぶない。

違法だと知らないままやれば違法でないことが、知っていてやれば違法行為になるというのがこの改正案だ。それならば、何も知らないままでいるほうが安全だ。著作権法など、まなじ知らないほうがよいことになる。

また、水野先生によると、部会で配布された参考資料には、「議論が拙速」との問いに対して「必要な議論を尽くした」と書かれてあるそうだ(これを書いている時点で現物は未見)。

これが虚偽であることは、議事録や最終報告書を読めば誰にでもわかる。わたしは最後の小委員会を傍聴していたので、多くの委員が継続審議を求めているのに、事務局が強引に打ち切った様を、しっかりと目撃した。

また、「学者や漫画家も反対しているのでは」という問いには、「文化審議会著作権分科会における審議結果を忠実に反映したものであり、幅広い関係者の意見を総合的に勘案したバランスの取れた内容となっている」と書かれてあるそうだ。

これも虚偽である。文化庁のまとめ方は、違法化拡大ありきで、異論の多くを封じ込めるものだった。これも報告書を読めばすぐにわかる。

こうした文化庁の虚偽説明を自民は鵜呑みにしたか、あるいは議員と官僚の全員が、ブロッキングがぽしゃった分を取り返そうとする官邸の意向を忖度したのか。

まだよくわからない点も多い。朝日の記事では、「原作のまま」「著作権者の利益が不当に害される場合」の限定は採用されていないということだが、一方で「二次創作の著作物のダウンロードは刑事罰の対象とはしないこととする」とも報じている。

TPP11による改正で、著作権侵害の非親告罪化から二次創作から除外したときは、原作のまま、権利者の利益を不当に害するもの、といった条件を付けた。それにならうならば、「原作のまま」「著作権者の利益が不当に害される場合」を刑事罰の対象にするのかなとも思うのだが、どうするのだろう。

(2019.2.23追記:現時点での種々の情報を総合すると、「二次的著作物」を刑事罰の対象から外す線が最有力な推測である。文化庁は「二次的著作物」(第28条関係)のことを「二次創作」と読み替えて、二次創作は除外すると言っているようだが、両者はおなじではない。「二次創作」は「二次的著作物」よりも広い概念で、模写などは「二次的著作物」にはあたらない。)

わたしの考えは、2月16日の弁護士ドットコムNEWS掲載のインタビューにあるとおり、「どうしても違法化するならば、原作のまま一定のまとまりでダウンロードする場合と、権利者の利益を不当に害しない場合を民事の要件に加え、刑事はそれらに加えて有償著作物であることと、反復継続性を要件にするべき」と考えている。

2月19日の専門家84名の共同緊急声明でも、ほぼ同じ考え方が出た。(わたしはこの動きを知らず、後から賛同者に加わった。)たぶんこれがベストな落としどころだと思う。