今日の委員会の結論は、違法化拡大に慎重で審議の継続を求める複数委員の意見が出たものの、スケジュール最優先の事務局が押し切り、報告書案を承認せず文言修正が主査預かりになったことはツイッターで述べたとおり。(ちなみに、違法ダウンロード拡大以外の部分は、パブコメ案に一部修正が入ったものの、異議なく承認された。)

方向性としては、ダウンロード違法化の拡大は行うものの、その条件については限定し(たとえば原作のまま、商業的規模など)、民事よりも刑事でさらに限定するといったことになりそうだ。

したがって、案の実態から「包括的ダウンロード刑事罰化」とわたしが勝手に呼んできたことを改めることにして、これからは「違法ダウンロード拡大」と表記することにする。

それはそうとして、パブコメに出てきた慎重論に対して、事務局が反論する文書が今日の法制・基本問題小委員会に出されたので、まずはそれを紹介したい。

まず私的使用のための制限をどう考えるのかで大きく立場が異なる。それは権利者に大きな損害を与えない範囲だから許されることなのか、それは私的領域での活動の自由を保障するためのものなのかである。

事務局見解は前者の立場からのもので、後者の立場に立つならば異なる整理になると、前置きされている。(2019.1.26追記:委員会では、後者の立場のほうが著作権法専門家のあいだでは一般的な理解だとの批判が出た。だとするならば、私的使用の一側面だけを捉えて国民からの声を論難するような文化庁の姿勢には驚きだ。)(2019.1.28追記:私的領域での活動の自由を保障する立場に立てば「異なる整理となる場合もあり得る」と前置きしながら、その「異なる整理」については書かないのは極めて重要。結論ありきでありながら逃げ道を残す、いかにも官僚的な書き方だ。)

そのうえで、一般ユーザーにとってとりわけ重要そうな部分を紹介する。(→以後が事務局見解のあらまし。)

  • フェイクニュースや政治家の発言などの検証が困難になる。→「そのような検証のためにあえて違法にアップロードされた著作物を利用する必要性には疑義がある。」
  • 作家や漫画家が創作の前段階で行う資料収集が困難になる。→そのようなダウンロードは私的使用にはあたらない場合が多い。「価値ある創作が行われ得るといった理由により、違法にアップロードされた著作物の利用を正当化することには疑義がある」
  • 引用目的でのダウンロードが困難となる。→引用して発信する目的で行うダウンロードは私的使用とは言い難い。「正規版の捜索・利用にコストがかかるとしても、そのことにより、違法にアップロードされた著作物の利用を正当化することには疑義がある。」
  • 創作の前提としての資料収集ができなくなり、文化の発展が阻害される。→著作権法では「無断アップロードを認めておらず、当該アップロードによる著作物の流通及びそれを活用した創作活動は想定していない。」
  • 二次創作等は原典の売り上げに影響しない。→著作権者が問題視していない場合は、アップロードもそのダウンロードも違法とならない。「違法に行われた二次創作等をユーザーが享受する自由が、原作の著作権の保護よりも優先するとの考え方には疑義がある。」
  • 重要な情報と同じページに違法にアップロードされた著作物がある場合がある。→「表示部分を適宜変更してスクリーンショットを行うことや、該当部分のみコピー&ペーストを行うことなどで対応できる場合も相当ある」

何というか、文化を司る役所なのに、新しい表現が生まれる現場で渦巻く清濁へのバランス感覚が欠如していると感じる。スケジュール最優先の姿勢からも、目線は官邸しか向いていないと言われても仕方あるまい。

最後に、今日の委員会でわたしが理解した範囲で、各委員の立場を記録しておく(発言順、敬称略、意見を理解し損なっているかもしれないので、後日公表される議事録を確認してください)。

慎重派委員:前田、生貝、小島、鈴木、前田(哲)、奥邨、前田(健)、深町、今村(資料には田村、前田委員の意見書あり。加えて生貝、小島、鈴木、田村、前田の各委員は連名の意見書を机上配付した模様(傍聴者には配付なし)。)

反・慎重派委員:大渕、松田

「パブリックコメントで提出された個別事例を受けた事務局としての考え方(ダウンロード違法化の対象範囲の見直し)」